選ばれし表現者たち(ダンサー)たちが繰り広げる空間アート

バレエ×ストリート×ジャズ×コンテンポラリー×チア×タップ×エアロビクス×新体操×社交ダンス

1st 2009.11.22-23 2Days 4Act

2nd 2013.9.26-29 4Days 6Act

DDDが初めてプロデュースしたダンス公演『SEKAI』が2009年11月22日(日)から23日(月・祝)まで、東京は青山にあるスパイラルホールにて行われた。
バレエ、エアロビック、新体操、ジャズ、コンテンポラリー、ストリート、タップ、ラテン、チア……。さまざまなジャンルのダンサーたちが1つのステージに集結、 さらに音楽、ファッション、映像までもが融合した一大エンターテインメントショー。 ダンスという共通言語で持って舞台を心から楽しむ気持ちが芽生えたとき、新しい“SEKAI”が生まれた。

様々なダンス・ジャンルが
融合するステージ

Jeffrey Daniel ジェフリー・ダニエル

共演者の印象は?
「サラは何年か前にYoutubeで見てすごいと思いました。本当にすごい、としか言いようがありませんでした(笑)。実際に一緒に仕事をするのは今回が初めてでしたが、実に多彩なパフォーマーですね。さまざまな引き出しを持っている。おまけに、ユーモアのセンスも抜群!」
ラストシーンはまるであなたが出演していた『SOULTRAIN』のように盛り上がりましたね。
「当時のテレビで黒人が演じる役柄といえば、ドラッグの売人か警察に追われる犯罪者が相場だったので、カッコいい服で決めたカッコいい黒人の若者がカッコ良く踊っている姿がテレビ画面に登場するなんて、本当に画期的なことでした。あの番組は、私たち黒人に誇りを与えてくれました。おまけに私は、とにかくダンスが好きだったから、夢中でした。後年、まさか、あのマイケル・ジャクソンと仕事をすることになるなんて、考えもしなかったですよ」
映画『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』 が話題になりました。それについて何か思うところはありますか?
「あの映画は、マイケル・ジャクソンの、ごく当たり前のリハーサルを撮影したものです。特別なコンサートのために、特別なリハーサルをしていたのではない。私が彼とリハーサルをしたときにも、いつもビデオカメラが回っていました。後でマイケルが見て、参考にするためです。彼は、誰よりも努力する人でした。残念ながらマイケルが亡くなったため、皆さんの目にあの映像が触れることになりました。あのリハーサルの様子は、彼と仕事をしたことのある人たちにとっては、当たり前の仕事風景なんです」
ラストであなたはマイケルの『Can't Stop Loving You』を歌っていました。
「バレエ、ジャズダンス、ストリート、タップ、コンテンポラリー……。多彩なダンサー達を結びつけることが、私の役割でした。いえ、音楽がすべてを結びつけた、と言うべきですね。さまざまなダンサーを紹介するだけでなく、彼らを合体させることが、このショーの眼目ですから。バレエダンサーがバレエ然とした踊りを踊るだけじゃない。ジャズダンサーがジャズダンスを踊るだけじゃない。ストリートダンサーがストリートダンスを踊るだけじゃない。バレエ、コンテンポラリー、ストリートが別々に存在していた時代もあった。でも、今はそれらが渾然一体とならなくては! 私たちは、そもそも、どうして踊っているのかというと、ダンスが好きだから。ダンスへのやむことのない愛があるからです。スタイルが違っても、違うエネルギーを発しても、違う趣があっても、ひとつになることができる。でも、これは、踊りの世界だけのことではない。世界レベルで、私たちはひとつになれるはずなんですよ。いま、北朝鮮、イラン、イラク、キューバが世界に脅威を与えています。彼らは、私たちとは違う文化を持った違う国。だけど、互いを知り、互いを受け入れるべきなのではないでしょうか。同じ地球で生きている同士として。今、手を取り合って生きることを学ぶときが来ている。お互いを脅し合っているときではありません。いま、世界で何が起きていると思いますか? 新型インフルエンザが蔓延し、多くの国で多くの命を奪うかもしれない。核爆弾が爆発し、火山が噴火し、津波が起こって、たくさんの命が奪われるかもしれない。互いを脅し合っている場合ではない。いまこそ、手を取り合って生きるべきなのです。『SEKAI』というパフォーマンスのテーマは、まさに、そこにあります。ダンスを通して人々が互いを理解し合い、共存することの大切さを認識することなのです。 タップダンサーが踊っていると、ラテン・ダンサーが登場し、両者が呼応しながら一緒に踊り、新たなダンスが生まれる。これこそ、『SEKAI』の何たるかを代弁しています。それとなく物語が展開し、全員で共有できるムーヴメントが生み出された。まさに、こうあるべきだ、と思いました。『SEKAI』のパート2が実現することを願っています」

translate Sako Ueno

SALAH サラ

公演を終えての率直な感想を。
「日本のダンサーと一緒に踊るのは、いつだって楽しいですね。練習熱心で、とてもフレッシュなエネルギーとスピリットを持っているが伝わってきます。今回の『SEKAI』がこんなショーになるなんて、予想外でした。文字通りの、フュージョン(と言いながら、両手の指先を組み合わせる)。しっかりしたコンセプトのもとで、いろいろなダンスが交わりました。出演することができて本当に良かった!」
観客の反応はいかがでしたか?
「とても熱心で、フレンドリー。会場は、笑顔と笑い声で満ちていました。泣いている人の姿も見えました。悲しいからじゃなくて、嬉しくて涙が出てきたんですね。私も嬉しくなりました」
共演者の印象は?
「ユースケ(大貫勇輔)はすごく良かった! アクロバット、コンテンポラリー、ウェーブ、なんでも自由自在。動きがしなやかで美しい。文句ないですよね。彼とのバトルを大いに楽しみました。日本の振付家とダンサーは、アジアのナンバーワンだと思っています。ただステージで、自分の内面をもう少しオープンに表現できるほうが良いな、と思うこともありましたが、日本人の特質として尊重したいです。真面目な表情を保つよう、教育されているんですね。時間に正確で、一生懸命に勉強する。踊りがとってもクリーン。感銘を受けました。感情表現の仕方も違う。僕はモロッコの出身です。モロッコ人は自分の気持ちをストレートに顔に出します。僕自身もステージで思いっきり感情を出します。より良いステージにするために。ステージは病院で観客は薬、というのは、私の持論です。だからステージに立って観客の前で踊っていると、この上なく自由になれ、自分のベストをお客さんに提供できる。お客さんが反応を返してくれると、なおさらハッピーになります」
エアロビックのパフォーマーとの共演はいかがでしたか?
「フィットネスのダンスは、とても美しく、エネルギッシュでアクティブ。ダンサー同士の動きがシンクロしているのもすごい。他のダンサーたちは、大いに参考にするべきですね。同時に、フィットネスのダンサーも、僕たちから学ぶことがあるんじゃないかな。感情表現をプラスする、とかね」
ところで、あなたの腹話術師のように口角を全く動かさず、不思議な声を出すパフォーマンスは観客を沸かせていましたね。
「私が考え出した“グルービー”というキャラクターなんです。子どもの頃から得意だった鳥の鳴き真似やミュージックボックス(口でパコパコ、効果音を出す)を発展させて、漫画みたいな声で喋る、あのキャラクターを作り上げました。初日と2日目のショーで少し変化しています。心の底から表現したいことを表現するために、同じパフォーマンスを機械的に繰り返すことはしません。観客の反応を受け止めて、新たな“グルービー”が生まれ出るんです。お客さんにいろいろな心配事を忘れ、童心に返ってもらうことができたら、本望です」
あなたはバトルの世界でNo.1のダンサーと言われていますが、それについてどのように思われますか?
「世界のベスト、じゃなくて、世界の誰とも違うダンサーだと思っています。人は誰しも、何かの才能をもってこの世に生まれてくる。料理かもしれない、スポーツかもしれない、歌かもしれない。私の場合は、ダンス。必要なのは、とにかく練習して練習して練習し抜いて、その才能を伸ばすことです」
ラストシーンではバトルもありましたね。
「TAKAHIROとのバトルは即興です。開演前にこんなことをしよう、あんなことをしようと話し合ってから、本番に臨みました。僕たちがつかみ合いをしようとしたところに、ジェフリー・ダニエルが現れて、ケンカが終わり、皆が打ちとける―。このショーの象徴的な場面です。いま、世界中で争いが繰り広げられている。国同士の紛争であふれている。争うのはもう止めにすべきだ、という大きなメッセージが込められているんですよ。いろいろなジャンルのダンスがあるけれど、どれも同じダンスじゃないですか。踊るのが好きだから踊る。自分自身で踊る。自分のスタイルで踊る。誰かと争う必要なんて、全くない。国の違いがあっても、その国ならではの長所を見せ合えばいい。その国ならではの美しさを見せ合えばいいんですよ。それがこのショーのテーマだと僕は思うのです」

translate Sako Ueno

SEKAI小さくても世界

DDDプロデュース公演『SEKAI』
上演のきっかけ

 多くの人々がデジタルなものに時間を費やし、各分野においてアナログとされる表現方法は年々衰退してきています。身体表現の〝ダンス〟もそのうちのひとつになりうるかもしれません。しかし、雑誌DDDは〝ダンス〟に〝ファッション〟〝アート〟〝ミュージック〟〝スポーツ〟〝エンターテインメント〟といった5つのカルチャーを融合させ、人々の生活に“ダンス”が少しでも浸透するよう、新たなダンスカルチャーを発信し続けてきました。
 今回の『SEKAI』は2次元の誌面を飛び出した各界の表現者達が3次元のリアルな“舞台”で集大成としての〝ダンス〟を表現することで、観客に実際に“ダンス”を体感してもらい、より深く興味を持ってもらいたいと感じました。
 また、ダンサーやアーティストたちに、より多くの表現の場を提供することもとても意味のあることだと思っています。舞台で魅せるダンスもあれば、フィットネスクラブなどで体験してもらうダンスもありますが、公演に限らず私たちがやっていることはすべて、人々に「ダンスのある生活」へ一歩踏み出すきっかけを作っているに過ぎないのです。

既存のダンス公演との違い

 今回の『SEKAI』には、オールジャンルのダンスにさまざまなカルチャーが融合されています。よりファッション感度の高いものにすべく、ハイファッション(ヨウジヤマモト)を起用したことをはじめ、ランウェイを設置した舞台、グラフィックや映像を駆使したステージビジュアル、そして各ダンサーによって創り上げられた表現をつないでいくスーパーバイザーとして広崎うらんさんに入っていただいたのも、すべて雑誌DDDの延長線上にあるからこそです。ひとつの決まりきったカラーを打ち出すのではなく、波長の違うカラーが集まった〝グラデーション〟のような公演がDDDらしさだと思っています。
 つまり逆を言えばさまざまな感性が集い創造される『SEKAI』とは、常に全体を意識してバランスをとっていかなければ混乱してしまいます。何かが突出していてもいけないし、偏った演出になってもいけない。ダンサーの人選にしてもキャリアは関係なく、いかにそのダンスにプライドを持ち、極められているか、そして世界に目が向けられているかがポイントです。ひとつの『SEKAI』を築き上げるために、お互いを尊重し合い、引き立て合えるダンサーが必要なのです。またエアロビックや新体操などの競技者においては、ルールのない“舞台”に立った時、どう表現者として魅せられるのかが新たな試みでもありましたが、共演者にとっても、観ていただいた方にとってもきっとダンスの概念は広がったのではないでしょうか。
 ダンサー、デザイナー問わず、全ての表現者が持つ小さな世界の集まりこそが、公演『SEKAI』そのものなのです。

公演タイトル『SEKAI』の意味

 広域な意味で捉えられやすいSEKAIですが、ダンスというのは1人の身体で表現ができてしまう、とてもアナログでミニマムなものです。しかし、今回のようにオールジャンルで見せることもできる。大小では表せない価値観がここにはあったと思います。来年も既成概念にとらわれない我々の『SEKAI』を通じて、ダンス本来の素晴らしさを伝えていけたら嬉しく思います。

DDD編集長 廣瀬元彦